しらゆき(二)




 目を覚ますと、一面のオレンジがかったピンク色が視界を満たした。暫くぼんやりした後、ああ、これは、ホテルの天井だと気づく。芳香剤の花の香りの中に、消しきれなかった煙草の匂いが微かに混ざっている。
 あたしは身体にバスタオルを巻かれ、白いシーツの上に横たわっていた。寝たまま横を向くと、上半身は裸で腰にタオルを巻いた風が、ベッドから離れた位置にあるソファに座っている。その前にあるガラスのテーブルに、来た時は置いてなかったマグカップがふたつ載っている。風はあたしの視線に気づくと、
「つばさ、大丈夫? 紅茶飲む?」
 心配そうに言い、カップを差し出してくる。
 あたしはのろのろと起き上がり、ベッドを降りて、カップを受け取る。風が備え付けのティーセットで作っておいてくれたのだろう。隣に座り、ひとくち飲む。すっかり冷めているけれど、起き抜けには飲みやすい。あたし、一体どれだけ寝てたのかしら。
「いま、なんじ……?」
 聞くと、風ははずしてテーブルの上に載せてあった腕時計を手に取り、「6時半くらい」と答えた。
「もうそんな時間なのね……」
「お腹すいた?」
「……ううん。あたしは何だかお腹いっぱい」
「…………」
 少しして、さっきいっぱい風の精子を飲んだせいかな、という理解に至り、はっと顔が赤くなる。風も、きっとそう思ったのだろう、恥ずかしそうにうつむいた。
「あ、あんたはどうなの? お腹すかないの?」
「ちょっとだけ。でも大丈夫」
「ほんと? 何か頼めばいいじゃない」
 テーブルの上にあったフードメニューのパンフレットを手に取ると、風は「いやいや」と首を振った。
「……こんな状態になってるのに、食欲なんかわかないよ」
 そう言って、自分の下半身を指し示す。タオルが膨らんで……いや、持ち上がっていた。裾から中が見えてしまいそうなくらい、むっくりと。
「さ、さっきあんなに出してたのに……?」
「……裸の、好きな女の子と一緒にいたら、こんなの無尽蔵だよ。……いや、それは言い過ぎだけど、それに近いっていうか……」
 何やら気難しい様子でそっぽを向き、ぶつぶつとつぶやく。そして、沈黙が流れる。
 あたしが寝ている間、風はどんな気持ちで目覚めるのを待っていたのだろうか。あたしにタオルを巻き、紅茶を入れ、一人でソファに座っていたのだろうか。それを思うと何だかむずむずする。
 気まずくなって、
「……また、舐めようか?」
 あたしが提案すると、風は顔を上げた。
「それか…………もう、いれても……」
 本当はまだ心の準備が出来ていなかったけど、見切り発車で、言ってしまった。口に出したあとで、少し怖くなる。
 ベッドにはふたつの枕、枕元にティッシュ、コンドームが置いてある。どれも、あたし達のためのものなのだ。
 風はあたしの顔をじっと見て、太腿に置いていた手をぎゅっと握った。そして、何かを決意するような表情で、言った。
「いや、いい。さっき、つばさが僕をすごく気持ちよくしてくれたから……今度は僕がつばさを気持ちよくする」
「え……」
「つばさが気持ちよくなるためなら、何でもする。もし何かして欲しいことがあったら、言って」
 赤面しながらも、真剣なまなざしで言う。そのまっすぐさに、また、きゅんとしてしまう。
「して欲しいことって言っても、そんな、すぐには出てこない……」
 言いかけて、止まる。
「あ……」
 ん? と、風があたしを覗き込む。
「あのね……も、もう一度、お姫様抱っこ、してほしい」
 ばかみたい。
 こんなの、自分がお姫様だって言ってるようなものじゃない。うぬぼれているみたいで恥ずかしい。
 でも、そんなうぬぼれも、風になら許してもらえる気がした。
「お姫様抱っこして、ベッドまで連れて行って……」
 消え入りそうにわがままを言うと、風はあたしの肩を抱き寄せ、
「かしこまりました。お姫様」
 と言って、髪にキスした。あたしはまた、照れ隠しのふくれっつらをしてしまう。でも本当は、お姫様と呼んでもらえて、とてつもなく嬉しい。
 王子様はあたしの身体の横から腕を差し入れ、難なく抱き上げた。そしてゆっくりと、ベッドへと歩みを進める。紳士的でいてどこか野生的なのはきっと、それが、これからあたしを抱くためだから。王子様もお姫様も、身にまとうのはバスタオル一枚きりだった。

 ベッドに横たえられると、今度は優しいキスが降った。降り出した雨粒のようにとめどなく、柔らかい。
 雲が太陽を隠すように、傷だらけの胸板が目の前を覆う。風が、仰向けのあたしの上に四つんばいになったのだ。
「逃げたかったら、逃げてもいいんだ」
 至近距離であたしを見つめながら、言う。
「本当にやめたいと思ったら、迷わず言って」
 あたしが小さく頷くと、風はあたしのタオルに手をかけた。そして、リボンを解くような繊細さで、前を開く。乳房が、お腹が、股が、外気に触れる。
 風は身体を起こして、改めてあたしの裸を見つめる。お風呂の中のように湯気も無い、明るい部屋で、今度こそあたしはすべてをはっきりと見られてしまう。どきどきして、自分の心臓を包むささやかな肉が、速いリズムで小さく揺れているのが見える。お腹がかすかに膨らんではしぼむ。
 だから仰向けは胸が無くなっちゃうからイヤだって言ったでしょ、という言葉が喉まで出掛かる。でも、自分を卑下してしまったら、また風が怒っちゃう。最高だって、言ってくれたんだから。卑下しちゃだめ。
 風を見ると、とろんとした目をしていた。あたしも同じようなものだと思う。風も腰のタオルを取り、ベッドの上でふたり、全裸になる。どうしてか、お風呂で向き合うよりもずっと興奮する。同じお布団の上で、まだ高校生のあたし達が一糸まとわぬ姿で対峙していることがひどく背徳じみていて、そして、甘い。
 大きな身体があたしにかぶさる。そのまま、ぎゅうっと抱きしめられる。硬くて、重くて、ちょっと痛い、男の人の身体。好きなひとの身体。それに包まれて、腿の辺りに性器の当たる感触がして、殆ど動かせない足をもじもじさせてしまう。あたしも、背中に腕をまわす。胸が密着する。
 すごくあったかい。裸で抱き合うって、こんなにすごいことなんだ。思い知って、彼の胸の中で息をつく。同じせっけんの匂いの中に、確かに男の人の匂いがする。
 指を絡めて、幾度と無くキスをする。すりすりと身体を擦り付け合う。
 やがて風はあたしの唇から、頬、額にキスを移動させると、耳たぶをそっと噛んだ。
「あ……っ」
 今までされたことが無いことをされて、予想外の感覚にぞくぞくする。
「つばさ、好きだよ」
 そう言って、首筋にちゅっちゅとキスをする。
「ひ――ああっ!」
 びくんと身体が跳ねる。ぞわぞわと、くちづけられた所から快感が波紋のように広がる。その反応をみてか、風はそこを続けて吸ったり舌でなぞったりし始めた。
「あっ……ふあ……んあぁっ……」
 鎖骨から上が何度も跳ねあがり、両足をすり合わせてしまう。
 首筋を吸われるのなんて少女漫画なんかで見たことがあっても、そんなにいやらしいことには見えなかった。胸や性器に触れることばかりが、いやらしいことだと思ってた。でも、それは大間違いだった。こんないつも人目に触れているような場所が、愛撫されるとこんなに気持ちいいなんて。風は顔の位置を変え、反対側の耳たぶと首筋にもキスをし始めた。
「んっ……風っ……きもち、いい……」
 なぜだか、わきの下から血の気が引いたような感覚が走る。
 自分の性器がじわじわと汗をかいている感じがして、濡れているんだろうなと思う。細かく喘ぎ続けるあたしに、風は耳元で「可愛い」と囁きながら、キスを繰り返す。その言葉でまたあたしは、とろけてしまう。
 風、と呼ぶと彼は顔を上げ、見つめあい、自然に唇を重ねた。舌を絡め、ちゅくちゅくと音を立てて互いの口を吸う。
 唇を離し、彼の太い首筋に両手をかざす。
「風にも……してあげる」
 あたしが気持ちいいから、きっと、風も同じことをされれば気持ちいいと思う。風が首の位置を低くしてくれたので、あたしはくっと頭を上げてそこに吸い付く。
「……っ!」
 風が息を漏らす。良かった、やっぱり気持ちいいみたい。安心して、あたしは懸命に彼の首筋を舐め、耳たぶをはむはむと噛んだ。好きな男の子の耳たぶ、柔らかくて美味しい。キスしながら唇を移動させて行き、彼の顎の裏も舐めた。髭の剃り跡がざりざりとしていて、少し痛い。大きな喉仏も舐めると、風はうめくような喘ぎ声を出した。
「風、きもちいい?」
 聞くと、風は答えずに、浮き上がっていたあたしの頭をそっと押さえてシーツの上に戻した。
「風……?」
 あまり良くなかったのかな、と見上げると、風は身体を起こして息を整えていた。そして、気を取り直すように、
「いや――僕ばっかり気持ちよくなったらダメだ。僕が、つばさを気持ちよくするんだ」
 そう言って、あたしの身体をごろんと裏返す。あたしは「え? なになに?」と戸惑う。
 うつぶせになった状態で肘を立てて風を振り向いた瞬間、風はあたしの背中に口づけた。
 また、初めての場所に風の唇を感じて、ぞくっとする。
「あ――……」
 背中、なんて。こんな、自分でも手の届きづらいところに、ひとの唇が這う日が来るなんて思わなかった。
 続けざまに肩甲骨、その周り、背骨と優しくキスされ、舐められる。あたしは振り向きかけたのを前に向きなおし、その感覚を味わうことに集中した。うつ伏せになった身体が、シーツの上で幾度と無く小さく跳ねる。
 風はあたしを南下し、腰にも、お尻にも、太腿の裏、ふくらはぎにも丁寧に口づけていった。全身にキスをして、あたしの気持ちいいところを探している。あたしが特に反応するところがあると、そこに何度かキスを繰り返し、舐め、撫で回す。あたしは沈黙したまま、それに翻弄される。
 足首、くるぶしの辺りを愛撫されている時、気がつくと目の前のシーツに少しよだれを垂らしてしまっていた。恥ずかしい。拭かなきゃ――と思ったとき、風が身体を移動させ、あたしをまた裏返した。
「ひゃあっ……」
 きっとあたしはめろめろに蕩けた表情をしていたと思う。頬を紅潮させ、よだれを垂らして、息を乱し、乳首を硬くし……そして、まるで引っくり返されたカエルの格好のように、足を開いてしまっていた。その股の間は、言うまでも無くぬるぬるとした洪水だった。
 風はあたしの全身を見て息をのんだあと、何かまずいものでも見てしまったかのように素早く顔を背けた。そして、口元を手の甲で押さえた。
「にゃ……にゃによ……」
 ふにゃふにゃの動けない状態で、彼に抗議する。
  彼は向こうを向いたまま、
「だ、だって……つばさ、すごすぎ……」
 と言った。
「なにが」
「何がって、もう……ちょっと……今のつばさ見てるだけで、出ちゃいそうだよ……」
 股の間のとろとろが、お尻のほうにひとすじ流れた。それでも、足を閉じることができない。
「あんまり声出さないから、そんなに感じてるとは思わなかった」
「こえは……あんまりかんけいない……」
「そうなの? ……つばさ、感じやすいんだね」
 そう言われて、あたしは急に、無性に悲しくなる。
 感じやすいんじゃない。あたしが元々感じやすいなら、他の男にされたって、綾人にされたって同じように感じるってことになる。そうじゃないの。そうじゃなくて――
「も……ばかぁ……」
 ふにゃふにゃのまま抗議の声を上げて、快感を帯びた身体を、骨の無い生き物みたいにベッドの上でずりずりくねらせる。
 風はそろそろとこちらに顔を向ける。
「かんじやすくなんてない。風だから……風だからなのっ……。風じゃなきゃ、こんなことにならない。風の前じゃないと、こんなかっこできない……」
 お腹を見せたカエルのまま、半泣きになって、必死に訴える。性器も丸見えの状態で。なんてみっともないんだろう。
 風はそんなあたしを見て、
「ちょっ……ちょっと待っ……!」
 凄く慌てたように言って、一度ぐっと目を閉じて、頭を振った。
 そしてすぐにあたしの横に寝転び、横からあたしの身体を抱きしめた。あたしがそっちを向くと、困ったような顔でキスをした。その後、鼻先をくっつけたまま、
「可愛いにもほどがあるだろ」
 言って、もう一度キスをした。
 そのまま横向きで抱き合い、何度もキスをしお互いの身体を撫で合う。子猫がじゃれあうみたいに。
 ひとしきりくすぐり愛撫し合って、風は再び身体を起こすと、今度はあたしの身体の前面にキスを始めた。さっき背中にしたように、鎖骨に、胸に、腕に、手首に、手の甲に、胃のあたりに、臍のまわりに、わき腹に。……性器だけは避けて、足の付け根に、太腿に、脛に、足の甲に。あたしは「んっ、んっ……」と小さく悶えながら身をよじり、恥ずかしいことにひときわ大きく足を開いてしまう。そこは避けられている場所なのに、おねだりするように見せ付けてしまう。全身に無数のキスを受けて生まれ変わったような身体の中で、そこだけがまだ淋しがり屋でじくじくと泣いていた。
 風はあたしの爪先までキスすると、開いた太腿に自分の両手を載せ、更に広げた。そしてゆっくりと割れ目を開き、なかを見る。怒っているような、悲しんでいるような、真剣な目つきで凝視されて、あたしはぎゅっと膣が締まってしまうのを感じる。恥ずかしさはもう臨界に達していた。ひだをめくられ、締まった膣の入り口を太い指先で広げられてしまう。
「……こんなふうになっているんだ……」
「あ……んまり、まじまじみないで……」
 自分で足を開いていたくせに、明るい場所で割れ目のなかまで詳しく観察されると恥ずかしい。こんなグロテスクな場所、何を思われているんだろうと不安になってしまう。もう、何も強がりの言葉なんて出てこない。目をつむって、自分のたいせつな場所への焼け付くような視線に耐える。
「つばさ……」
 大好きな声。他の誰でもなく、あたしの名前を呼ぶ声。
 息を吸い込む音が聞こえたかと思うと、押し広げられた秘部に唇がかぶせられ、
「ああっ……!」
 舌全体を使って舐め上げられ、大きく喘いでしまう。
 下を見ると、自分の足の間に男の子の頭が埋まっていて、前後にずりずり動いている。その光景に、舌の感触に、身体ががくがくする。
 好きな男の子の舌が、柔らかく湿った舌が、あたしのいちばん秘匿すべき場所を穿っている。
 ひだの間まで丹念に舐められ、突起を舌先ではじかれる。膣の入り口を吸われる。ぺちゃぺちゃ、じゅるじゅるといやらしい水音がベッドの上で奏でられる。お尻の下のシーツが湿っているのを感じる。
「きもちいい……風……きもちいいのっ……」
 愛液のほかに、足の間が汗をかき、太腿を伝うのを感じる。身体がぽかぽかと暖かい。自分の身体から湯気が上がっているんじゃないかと思う。
 風の舌は、あたしの秘部を何度も何度も往復する。突起が大きくなっているのを感じる。そこに舌がぶつかると、甘い痺れが走る。肩から上を、左右にくねらせて悶えてしまう。やがて風は、突起を集中的にねぶり始めた。きっと、突起に触れたときの反応が段違いだったものだから、それに応じてくれたのだろう。恥丘の向こう側に、彼の顔が見える。
「やっ、あん……あっ、あっ、ひぅ……! ああんっ……!」
 舐められると、どれだけそこが大きくなっているかわかる。ぷるん、ぷるんとはっきり揺れているレベルだ。死ぬほど恥ずかしい。ある意味、膣を見られるよりも恥ずかしい。胸はろくに大きくならないくせに、何でそんなとこばっかり大きくなるのよ。恨めしい気分になる。
 風はそこを執拗に舐め、唇で摘み、優しく絞り上げ、離す。そんなことを繰り返され、あたしはべったりと足を広げ、浅い呼吸を繰り返し、自分から出ているんじゃないような甘ったるい声を漏らした。
「ひぃ、あんっ……やん、そんな、ぷるぷるさせちゃ、やぁ……」
 言うと、ますます風は火がついたようで、舌で膣口をぐりぐりと刺激しながら、二本の指で突起を挟み、素早く揺さぶり始めた。
「ふああっ……! やぁ、ああん、はずかしいっ……! はずかしいの……っ!」
 恥ずかしいのに、足を、V字にまで開いてしまう。恥ずかしい場所を、彼の前にむき出しにしてしまう。突起がぶるぶると揺れるにつれ、だんだん、足の付け根に快感のカタマリのようなものが溜まっていく。何、これ。
「やぅう……へんなのっ……! 何これぇ……風、へんになっちゃうぅ……やっ、やっ……!」
「つばさ……かわいいよ、すごくっ……!」
 ひときわ激しく、強く摘んだ突起を振るわせる。カタマリが、熱く、マグマのように疼き出す。身体ががたがたと震える。
「やっ、こわいよぉ! へんなの……あっ、あたし、おかしくなっちゃ――」
 ぴん、と突起を挟んで揺れていた指が振り切れて。
 極限まで膨らんだそこに、歯が立てられる。
「――――あああああっ!!」
 瞬間、足の付け根の快感のカタマリが、何かを押し流すように強く緩慢に、下へと移動し始めた。
「あっ、あっ……は、ああああっ……!」
 太腿に、膝に、ふくらはぎに、ゆっくり下っていって、つま先まで到達する時には、あたしの足はコンパスみたいにぴんと伸び切っていた。自分ではもうどうすることも出来ない感覚に支配されて、腰が、何度も大きく跳ねて、跳ね続けて、
「ひあっ、あっ、うぅん……あふっ、ああんっ!」
 しつこく寄せては返す快楽の波に身体は従順に翻弄され、これまでよりも何段階も上の高く甘ったるい悲鳴を上げた。背中が反り返る。
 何分、続いただろう。その間じゅうずっと、優しく荒々しい風の甘噛みを感じていた。

 ベッドの上にくったりとしてしまったあたしを、風は心配そうに見下ろした。
「……大丈夫? つばさ」
 お尻の下がおもらしをしたみたいに広範囲に濡れていて、ひんやりとする。
「ん……だい……じょぶ……」
 朦朧として応える。
 頭がじんじんして、身体は力が抜け切っていて起こすことができない。
「……いくの、はじめて……だったの」
「…………」
「きもち、よかったの」
 ぽつぽつと白状すると、風は、嬉しさを噛み殺しきれていないような、でも口をきゅっと結んだ、変な顔をした。
「つばさ……初めて……だったんだ」
「ん……綾人には、こんなとこ、さわらせたこともなかったし」
「その……自分でしたこととかは、無かったの?」
「あったけど……軽く触るくらいで、いったことは、なかったから……」
「そう……なんだ」
 風はあたしの髪を撫で、バスタオルで上半身、下半身と拭いた。
 あたしはもうここまで来たら、何もかも見せていいような気持ちになって、のろのろと何とか身体を起こした。そして、裸よりも、膣よりも、膨れ上がった突起よりも、もっと厳重に隠していた想いを呟く。
「今夜は、初めてなのよ」
「――え?」
「………………セックスも、初めてなの。初めてなんだから」
 そう言って、風の目を見る。声が、震えていた。
「つばさ」
「誰が何と言おうと、初めてなの。あんなのは、あんなのは――」
 “あんなの”。いきなり話に出しても、あたしと風にだけはわかるであろう、それが指し示す出来事。その共有が、この上なく悲しい。苦しい。
「あんなのは、嘘よ。偽物の出来事なの。絶対に、あんなの……」
 そこまで言いかけて、風に抱きすくめられた。胸板が濡れる。いつの間にか、泣いていた。
 風は大きな手であたしの頭を撫でた。
「うん。僕も、そう思うよ」
「風……」
 暖かい風の胸の中。汗で冷えた身体に、熱が戻ってくる。
「あんなの、塗り潰して。忘れさせて。ほんとうのセックス、して……」
 涙声で懇願する。風はうん、うん、と頷く。
「本当のことを言うと、すごく怖いよ……うまく出来るか、自信ない。でも、つばさがそう言ってくれるなら、頑張るから」
「うん……」
 かつて、ともに酷く傷ついた二人。恋も、性も、どうしていいかわからなくて、長く迷走した。でも今夜は、ひとつの答えが出せると思う。怖いけれど、あなたとなら。
 そう、目を閉じて、唇を合わせた。

 部屋の明かりを減らし薄暗い中で、大きな背中の人は小さな袋をぴりりと開けた。そして、向こうを向いて、慣れない様子で装着する。あたしはそれを、ちょこんと座って眺める。たまに、男の人がコンドームをつけている様子は情けないとか聞くけれど、そんなこと無いと思う。あたしのことをきちんと考えてくれている感じがして、誠実で、たくましく見える。
「これでいいのかな」
 コンドームを着けると、風のものは透明な薄い膜に覆われてつやつやとした状態になる。(実際はそんなこと無いんだろうけど)きつく、はち切れそうだ。改めて、こんなに大きいものがあたしの中に入るんだろうか、と不安になる。――一回入ったことがあるじゃないか――というのは、もう打ち消して。
 ベッドの上で二人向かい合って座って、何だかお見合いでもしているかのように、照れながら見詰め合う。お互い裸で、避妊の準備も済ませ、もう、挿入するしか後が無いのだ。
「つ……つばさ」
 風はあたしの肩をつかんで、緊張気味に言った。
 あたしも、ごくりと喉を鳴らす。
「やさしくする……やさしくするから」
 半ば自分に言い聞かせるかのように唱え、ゆっくりと、あたしの身体を後ろに倒した。頭が、ふわふわの大きな枕の上に落ちる。
 ……どんなに枕がふわふわだって、壁紙が綺麗な花柄だって、照明がロマンチックだって、肩を撫でる手が優しくたって、これから、痛みを伴う行為をするのだ。それらはいくらかの慰めにはなっても、最終的に痛みを乗り越えるのはあたし自身だ。覚悟を決めなければ。
 怖い。怖くない。怖い。怖くない――まるで花占いでもしているかのように、2つの相反する感情を行ったり来たりする。スローモーションで、風があたしに覆いかぶさってゆく。怖い。怖くない。怖くなんて――。
 股の間のぬかるみに、丸く、かたいものが触れる。あたしの中心に向かって、押し進められようとする。そんな大きなもの、入れるところじゃないわ。そう言いたくなるような、強烈な圧迫感。でも、ここなのだ。間違いない。眉間に皺を寄せ、歯をくっと噛む。あたしの、あたしと風の、初めて。鍵の開いていないドアを開けるように、強く、押し込まれ――
「だめだ……」
 声がして、急に、膣が圧迫から解放される。
 逆光になった彼の顔を見上げる。
「……風……?」
 眉根を下げ、苦しげに顔をゆがめていた。
「どう……したの?」
 呆然として問うと、ぽたりと、暖かい水滴が頬に落ちた。
「……だめだ。どうしても……」
 あたしの上に四つんばいになったまま、風は涙をこぼした。吐息が震えている。
「やさしく、したいのに……」
「…………」
「……あるポイントから、どうしても……つばさがつばさだってことを、振り切って、忘れて、割り切って、モノを相手にしてるように押し込まなきゃいけないところがあって……」
 一度、しゃくり上げる。
「……すごく、嫌なんだ。怖いんだ。そこから先に進めない。だめなんだ……どうしても……」
 涙声で、力なく身体を起こし、座り込む。
「ごめん……つばさ……。ごめん……」
 うなだれて、涙をこぼす。薄暗い部屋に、啜り泣きが響く。
 あたしは、やっと気づく。風はあたしと同じくらい――もしかしたらあたし以上に、怖かったんだ。“あのとき”の再演となってしまうことが。“あのとき”と同じように、モノとして扱い、扱われる交わりになることが。
「風……」
 声をかけても、頭を垂れたまま泣いている。
 なんて――優しいひとなんだろう。あたしの、かわいいひと。
 膝立ちで、そっと近づく。正面から抱きしめ、背中を撫でる。すると余計に嗚咽を漏らす。
「ごめん……」
 弱々しい声。股間のものは猛々しくいきり立っているままなのに、気持ちは自分の中の獣に怯えて立ちすくんでいる。こういうひとなんだ。これが風なんだ――他でもない、あたしの好きな男の子なんだ。
 あたしは、自然と、覚悟を決める。
 座りこんだ風の太腿の上に、静かにまたがる。そして、天を仰ぐそれを指でそっと支え持ち、両手で包み込むように撫でた後、自分の膣口へと導く。
 まさか、と風が顔を上げる。
 先端の大きな丸み。これを体内に入れるのかという非現実感にくらくらする。でもそれをやり込めて、あたしは何も言わずに、ゆっくりと腰を落とす。下からの圧迫感。
 周りの皮膚が巻き込まれて引っ張られて、ひりひりと痛い。でも、大丈夫、大丈夫、と体重をかける。大丈夫。あたしには、あたしの中には、風のために用意された場所があるんだ。
 ごりっという固い手ごたえがして、痛みと、異物感とともに、少しずつ風のものが入ってくる。顔をしかめずにはいられない。でも、最後まで入れるしかない。
「つ……つばさっ……!」
「だい……じょぶ、よ……。いれてあげる、から……ね」
 ぴったりと閉じていたところが、押し広げられる。裂けるようにすら、感じる。涙が流れ出す。
 上から重力をかけているのは自分のほうなのに、なぜか、自分のほうが「重い」と感じる。膣が、とてつもなく重い、重いと悲鳴を上げている。
「ん……っく……」
 痛い。
 いたい、いたい、いたい、いたい、やだ、いたい、いたいよ、いたい――
 頭の中だけで、思う存分に泣き言を叫ぶ。
 ……ううん、こんなの、どうってことない。同じようなこと、これまでにもあったもの。それは、“あのとき”ではなくて――あたしが作って捨ててたケーキを食べてくれたとき。教室で久世さんと話していて、その後、追いかけて引き止めてくれたとき。向日葵畑で、抱きしめられたとき。一緒に帰ったとき。初めて“つばさ”って呼んでくれたとき。電話で話したとき。エプロンを燃やすのに付き合ってくれたとき。“まもる”って言ってくれたとき。あたしの作ったお菓子を部屋で食べてくれてたとき。フェラチオをすると、気遣ってくれたり、“気持ちいい”って言ってくれたとき。キスをしようとしてしまったとき。雨の中で腕をつかまれたとき。捕らえられ、殺されそうになったあたしを、身を挺して守ってくれたとき――――。何度も何度も、風はあたしのなかに入ってきたの。少しずつ、行ったり来たりしながら、あたしの奥底に触れた。そのときの痛みと同じよ。大丈夫、受け止められる。
「…………すき、だからっ……」
 熱い、痛い、痛い、重い、痛い、
「……っ!!」
 奥まで、入った。
 下を見ると、あたしの裂け目に、風の大きなものが刺さっている。お腹の裏に、何か激しく“詰まって”いるような異物感を感じる。
 新しいものが自分と言う存在の中に加わって、あたしの質量が変化したみたいで、あたしの身体は不安定になる。自分を落ち着かせるように、大きく息をつく。
「つばさっ……」
「風……大丈夫、よ……」
 いっぱいいっぱいの状態で微笑みかけて、つなぎ目を指でなぞる。風の陰毛と、あたしの突起が、同時に指に触れる。つながってる。あたしと風、ひとつになってる。それが嬉しくて、また涙がぽろぽろこぼれる。
 手をのばし、自分のお尻の下にある、風の袋に触れる。そして、優しく揉む。風は大きく息を漏らす。
「ちゃんと、はいれたよ……。いいこ、いいこ」
「あ……あああ……」
 あたしの中にいるいきものが、膨らんで、ぎゅちぎゅちとあたしを内側から押し広げる。
「……っ、ねえ、風……あたしのなか、気持ちいい?」
「……うん、気持ちいい……あったかい、すごく……」
 目を細めて、あたしをぎゅっと抱きしめる。また、深呼吸する。
「つばさ……僕……ごめん……また、守られて……」
 いいの、と彼の頭をなでる。そして、ちゅっと軽く口づける。
「ばか。いいの。あたしが強くなれるのは……風のおかげなんだから」
 風は、目を潤ませてあたしを見つめる。
 そのまま、対面座位で幾度と無くキスを交わしていると、痛みが和らいできた。あたしのなかにあるものが、あたしに、少しずつなじんでくる。
 抱きしめあって、お互いを撫であう。つながりを感じる。
 風はあたしの下で、揺り籠のように身体を揺らした。ひとつになった部分に、優しい振動を与える。身体全体があったまってくる。
「んっ……んっ……風……」
「つばさ……つばさ……」
 圧迫し合う性器。広げられた状態の膣から、蜜が漏れる。
「つばさのなか……せまくて、ぬるぬるしてて……きもちいい……」
 息を吐き出しながら、感極まったように言う。あたしは彼の頬を撫でて、またキスを繰り返す。
「……うごきたい……?」
 聞くと、風は逡巡し、恥ずかしそうに頷いたあと、「でも、やっぱり」と言い直した。
「その前に、さっき出来なかったこと、したい」
「え……?」
「つばさのなかに入るの。今度は、出来ると思うから……」
 風のほうからの挿入を、もう一度やり直したいということだろうか。……自分の身体のことを考えれば、また改めて痛みや異物感を感じてしまうと思う。でも今つながっていると、この膣の状態のまま挿入を何度も繰り返せば、慣れてゆける感じがした。大丈夫、こわくない。
「……ごめん。つばさが嫌なら、しない」
「……ううん、いいよ。して」
「え……」
 彼の胸に寄りかかったまま、彼のものに貫かれたまま、彼を上目遣いで見上げる。
「いっぱい練習しよ……ね?」
そう微笑むと、膣の中の彼のものが、あたしの内臓をぐっと押し上げた。

 つながったままベッドに押し倒され、正常位の格好になった。
 風は身体を起こし、慎重に、ゆっくりと、腰を引く。自分の恥丘の向こうから、赤黒い太いものが、少しずつ引っ張り出されるのが見える。自分のなかみが、外に向かって引っ張られているのを感じる。
「んっ……」
「はあ…はあ…つばさっ……」
「あ……ん」
 本当に、なかなか抜けない野菜か何かを力を込めて抜くかのように。まるであたしのなかに根を張っていたものを抜くかのように。じわり、じわりと引っ張り出される。
 亀頭だけが含まれるぐらいになったところで、風は腰を止めて息をつく。
「……ごめん……まずは、ここから、入れていっていい……?」
「ん……いいわよ」
 承諾すると、風はあたしの裏返った太腿をシーツに押さえつけ、こちらからも接合部が丸見えになる形にした。
「あっ……」
 500mlペットボトルみたいな長さをもった太いものが、あたしの割れ目へと確かにもぐりこんでいる。それが、はっきりと見える。そのさまが、生々しくて、どこか神秘的に感じられる。
「風の……が、はいってる……」
 そこを見つめながら、ぼんやりとつぶやく。
 風は頷くと、今度はさっきまでとは逆方向に、腰を押し始めた。これでもかと言うくらい、緩慢に。
「ふ、ぁっ……」
 再び、膣の中が押し広げられていく。でも、自分で入れたときほどは痛くない。やっぱり、しばらく繋がってなじんでたのが良かったんだ。
 まるでスローモーションの映像みたいに、風のものがあたしの膣にゆったりと飲み込まれていく。やがて、奥に突き当たると、またゆっくりと引き出される。風はすごく真剣な様子でしているけど、あたしに挿入を見せ付けて、羞恥を煽り立てているようにも感じられる。そのくらい、粘着質ないやらしさのあるスピードだ。
「あん……風っ……あっ、ああ……」
 亀頭だけはなかに入ったままで、竿の部分がぐっちゅ、ぐっちゅという音を立てて上下する。
 10回くらい往復したところで、もう嫌な痛みは遠ざかって、心地よい異物感だけが生まれ始めていた。
「う、うぅん……あん……風の、きもち、いい……」
「ぼくも……だよ、つばさ……」
 ふたり一緒に息を乱す。
 セックスしてる、と思う。ああ、あたしと風は、今、セックスしてるんだ。
 拙いけれど、手探りだけれど、いっぱいいっぱいだけれど。確かにセックスしてる。
 もう何度か往復したあと、風はぐっと奥に押し込むと、あたしのほうに身体を寄せてきた。挿入角度が変わり、伴って膣のなかの圧迫具合が変わる。
「……つばさ。おっぱい飲んでいい?」
 顔を近づけて、聞く。
 今のあたしに、断る理由なんて何もなかった。
「ん……いいよ」
 支え持つようなボリュームなど元から無いし、おまけに仰向けでぺたんこになっている乳房を、つい、手で差し出すような仕草をして彼に与えてしまう。そんなあたしを笑うこともせず、彼は真摯に吸い付いた。
 下半身はずっぷりと埋め込んだまま、乳首を一心に吸う。空いたほうの乳房を手で揉む。赤ちゃんみたい、と思ってしまう。あたしからミルクは出ないし、赤ちゃんとこんないやらしいことをする筈は無いのだけど。
 腰が押し付けられ、風の硬い陰毛があたしの突起をこする。その度に、身体がぴくんと反応してしまう。
 風はひとしきりおっぱいを飲んだ後、やがて、あたしの無い胸の谷間に顔を埋め、決心したように言った。
「……ちゃんと、最初から入れる」
 おっぱいに甘えた状態で言われても、という感じだが、それは言わずにおいた。
「……だいじょぶ? 無理してない?」
 頭を撫でながら言うと、風はちょっとふてくされたような顔をした。
「大丈夫だよ、今度こそ……」
 そう言って身体を起こし、ゆっくりと、あたしから性器を引き抜いた。亀頭が膣口を通過するときの衝撃で、あたしは声を漏らした。性器と性器の間にとろりと糸が引かれる。
 コンドームをつけ、愛液でぐしょぐしょに濡れた状態のそれは、彼のお腹にぴったりとくっつくくらい、大きく反り返っていた。彼の身体は全体としても大きいのに、それでも、その大きな性器を持て余しているように見える。
 彼はベッドの上に膝立ちになったまま、仰向けで足を広げたあたしを見ている。最初は性器の辺りばかりを凝視していたが、やがて、あたしの目を見つめた。そうよ、風。怖ければ、あたしの目を見て。怖くないよ。大丈夫だよ。そう、目で訴える。
「――風」
 彼に両手を伸ばす。
 彼の身体が、ゆらりと、あたしの身体に影をつくる。
「あたしの、なかに――」
 言い切らないうちに、唇がふさがれる。
 そして次の瞬間、彼の先端があたしのぬかるみに、強く、押し当てられ、飲み込まれた。

 注射みたい。
 入れるときと抜くときとが、際立って痛みを伴う。
 一往復ごとに、亀頭まで完全に抜いたり、挿したりする。いやらしい形の先端によって、幾度と無くあたしの入り口はぐにゅっと歪められ、押し込まれ、引っ張り出され、愛液を撒き散らす。ぎゅぷっ、ぐちゅ、ぐちゅっと、わざとらしい音が足の間で繰り返し響く。
「あんっ、風、あっ、いい、ああんっ……」
 何度も風の剛直に突入され、えぐられ、出て行かれる。普通のセックスのピストンを、毎回いちいち抜き挿ししているのだ。リズムはゆっくりしているけれど、刺激は強い。
 馬鹿の一つ覚えのように愚直に繰り返す風に、「馬鹿、練習しすぎよ」と言いたいのだけど、言えない。……気持ち、よくて。
「つばさ……つばさぁ……」
 気が触れたようにあたしの名を呼び、汗を垂らす。男の子の――ううん、男の匂いを立たせる。
「きもちいいよ、つばさ、ああ……」
 何度も何度も、あたしの中にずぷりと突き入れる感覚を味わう。
 もう、馬鹿。しつこいのよ。さっきはあんなに泣いて怖がってたくせに、馬鹿、馬鹿。でも、100回でも1000回でも練習して。好きなだけ楽しんで欲しい。悦んで欲しい。大好きよ、風。
「風、きもちいい……風の……はいってくるの、きもちいいの……」
 あたしも、女の匂いを立たせていると思う。下半身から、酸っぱいような甘いような匂いが漂う。
 ふと、風が腰を動かしたまま、
「僕の――なに?」
 と問いかける。あたしははたと我に返る。
「僕の、何が入ってくるの……?」
「ば――ばか、そおゆう、ベタなこときかないでよっ……」
 喘ぎながらも、抗議する。
「でも、聞きたい。つばさは、これ、何て呼ぶの?」
「ば、ばか、ばか、ばかっ……」
 清純ぶっているわけではなくて、本当に、「それ」の名前を明言したことがないことに気づいて、あたしはちょっと愕然とする。頭の中だけでも、いつもごまかしごまかし指し示していた。
「なんて呼ぶの?」
「……呼んだことなんて、ない。わかんない」
 弱々しく答えたところで、また、ずぶっと突き入れられる。身体がこわばる。風にそういうつもりは無かったんだろうけど、何だか答えを責められているみたいだ。
「わ、わかんない……」
「特に決めてないの?」
 頷くと、風は、じゃあ、と
「じゃあ、今決めて」
 と言った。
「ふぇっ……?」
「僕のこれ、何て呼ぶか決めてほしい」
 頭の中に、それの、正式名称とか、俗称とか、聞いたことのある呼び名がぐるぐるする。でも、どれも口にするのは恥ずかしい。今まで散々舐めたり、自分の中に入れるまでしたのに、名前を言うことがこんなにも恥ずかしい。
 逡巡している間も「それ」は、早く呼んでよと言わんばかりに、あたしの膣をずぷずぷと行ったり来たりしていた。
 どうしよう、どうしよう。どう呼べばインランっぽかったりふざけてたりしないのかな。わからない。他の女子はどう呼んでるんだろう、例えば、えーと、久世さんなら教科書的なことを言いそうよね、
「――――い、陰茎」
「…………」
「とか――――」
 風が、ぽかんとしてる。
 あたしは何か頓珍漢な答えをしてしまったとはっと気づき、
「ちっ、ちがっ……!」
 下半身を貫かれたまま、足をじたばたさせて撤回をする。
「違うっ、嘘、嘘、今のは忘れて……!」
「え、いや……」
「違うの、今のは違うの、えっと、えっと、えっと」
 顔を横に向け、恥ずかしさに震えながら、男子はこう言う人が一番多いかな、でももうちょっと丁寧に、とぐちゃぐちゃの頭の中で検討し、
「…………おちんぽ」
 聞こえるか聞こえないかくらいの音量で、言ったつもりだった。
 のに。
 風にはしっかり聞こえていたらしい。
 膣のなかの、おちんぽ、が、ぐわっと大きくなってお腹が押されるのを感じた。
「い……たぁい!! もう、もう言わないんだからっ!! 二度と言わない!! 言わない!!」
 手で顔を隠してぎゃーぎゃーと騒ぐ。
 卑猥な言葉を口に出して言ってしまったことが、それを風に聞かれたことが、恥ずかしくてたまらない。
「ばかっ! ばかっ!」
「ご、ごめん、つばさ……まさかそんなに恥ずかしがるなんて……」
「恥ずかしいわよ、ひとを何だと思ってるのよ!!」
 燃え上がりそうに熱い顔をてのひらで押さえて抗議する。
 風はそんなあたしの手をとり、耳元に口を寄せ、囁いた。
「……可愛い。……そろそろ、激しくしたいんだけど、いい……?」
「え……」
 風の顔を見ると、熱に浮かされたような、情欲に掻き立てられた目をしていた。
 そして、その目のままで、
「僕のおちんぽで、つばさのおま」
 言い終わる前に、頭をはたき飛ばした。

 ベッドがきしむとかいうのは誇張表現かと思っていたら、本当だった。或いは、このベッドの強度がじゅうぶんで無いのか。或いは、風の動きが激しすぎるのか。その両方か。
 挿入の恐怖を克服した風は、あたしの足を抱えて本格的な抽送に入った。
「あっ、うっ、うんっ、んっ……あっ、ああっ……!!」
 さっきまでのゆったりした出し入れとは打って変わって、スピードアップした、激しい動き。
 ぐちゅぐちゅと性器が擦れる音と、ベッドが軋む音と、二人ぶんの喘ぎ声が重なる。
「はあっ、あっ……つばさ、つばさのなか、きもち、いいっ……」
「うん、あ、あたしもっ……」
 あたしの身体のせまくて濡れた小さい部分の内側が、好きなひとのかたくて太く長く出っ張ったもので何度も擦られえぐられる。
 生理の血で濡れるだけで心もとなく、少しだらしないように感じていたそこが、もう生理どころじゃない勢いで疼いて痛んで濡れている。それだけじゃない、風のものに、絡み付いてる。
「風、好き、風……」
「つばさっ、つばさ……!」
 突かれると、仰向けでも身体が揺れて、それに伴って乳房がぷるぷる揺れる。あるか無いか程度の胸なのに、一丁前に揺れるのが気恥ずかしくて、隠すように両手で押さえる。風は腰を動かしながらも、その手をそっとほどく。暫くしてまた恥ずかしくなって、隠す。また、ほどかれる。何度も繰り返す。風はやがて焦れたように、あたしの胸を揉み始めた。硬いものをあたしに突き入れながら、柔らかさに酔うように激しく弄った。
 性器が、ぬるぬる、ひりひりする。それでも、ずっとこうしていたい。
「は、ああんっ、ふあっ、あっ、風、すきぃ、すきよ……」
 身体に絶え間なく甘い衝撃を与えられながらも、懸命に言葉を搾り出す。すると風は上半身をぐわっと倒してのしかかって来て、あたしの唇を強く吸った。くちゅくちゅと音を立てて舌を絡める。あたしのすべてが、風でいっぱいになる感じがする。しあわせ。しあわせだよ、つかさ、パパ、ママ。
 唇を離すと風はあたしの顔中にキスして、ほっぺたを甘く噛んだ。そして、腰を止める。
「や……ばい……これ……」
「風……?」
「……つばさを、食べちゃいたい……」
「え――」
「いや、本当にばりばり食べたいわけじゃなくて……つまり、その……そのくらい、激しく……つばさが欲しい」
 苦しげに、何かを我慢している顔。
 それが――かわいい。
 食べていいよ。そう、思う。
「いまさら、何言ってるの……」
 頭を撫でながら、微笑む。
「つばさ……」
「ねえ、奥まで、突いて」
 風が避けていたことを、言う。激しくしながらも、かたくなに守っていた一線を、あたしはわかっていた。彼は一瞬、視線を彷徨わせる。
「だ――だめだよ、怪我させちゃうから」
「大丈夫……ゆっくり、いっぱいほぐしてくれたから、もうからだが準備できたと思う」
「でも」
 躊躇する彼に、自分のほうからぐっと腰を持ち上げ、彼の根元までを飲み込み――足を、彼の腰に巻きつける。
「あたしのぜんぶが好きなんでしょう? なら、あたしのぜんぶをもらって。奥まで」
「つばさ」
 別に自分をなくしているんじゃない。モノ扱いしてるんでもない。あたしの身体はあたしのものだ。
 でも、それとは別のレイヤーで、あたしは風のものになりたい。ううん、風のことが欲しい。ぜんぶぜんぶ、あたしのなかに入って欲しい。
「風が……欲しいの」
 きゅう、と彼のものを締め付けてしまう。涙がにじむ。
 ああ、あたし、いつからこんなに――
「欲張りで、ごめんね」
「ばっ――――」
 その瞬間、重力が狂った気がした。
 腰が上に引っ張り上げられて、奥の奥まで、太いものがねじ込まれる。喉の奥から出てきそうなぐらいに、深く。
「くぁ……はあっ……!!」
「ばか……欲張りなんて、僕のほうが、何千倍も、何万倍も……っ!!」
 そして、がっちりと腰を抱え上げられた状態で、大きく距離をつけて、突かれる。衝撃に、頭が真っ白になる。
 それから激しく、数え切れないくらい何度も何度も、根元まで打ち込まれる。もう、痛みすら感じなかった。少し前まで痛みと呼んでいた感覚は、あたしにとって当たり前のものとなり始めていた。
「あ、ふ、あっ、あっ、ああうっ……」
 あたしの意思もショートカットして、声帯までもが揺さぶられて声が漏れる。
 この身体は、どこまで深く彼と繋がれるのだろう。
「ああああっ、つばさ、つばさっ……!!」
 少しかすれた声であたしの名を呼び、猛烈に性器を突き込む。あたしの膣を最奥まで360度味わいつくそうとするように、擦り立てる。子宮をぐりぐりと圧迫する。まるで、その中にまで入ろうとしているかのように。
「愛してる、つばさ……愛してる……」
「ば、か……っ」
 愛してる、なんて、結婚してから言う言葉でしょう。
 そんなの放言するなんて、結婚前に生でやって中出しするのと同じよ。
 でも――それだけ、精神的に踏み外してくれたことが、あたしはとんでもなく嬉しくて。愛してるの言葉で、あたしの中の何かが受精したような気持ちになる。
「愛してる、愛してるっ……!!」
 コンドームをつけているから、あたしは今度は精液を直接吐き出されることはない。でもその代わりに、その言葉であたしは何度も奥に暖かく激しいものをびゅーびゅー出されてるみたいで、同時に実際性器をめちゃめちゃに突かれてその形而上的な精液があたしのなかでかき回されて執拗に子宮へと押し込まれているようで、酩酊する。
「つばさ、愛してるよ、ああっ……」
「も……ばかぁ、ばかぁあ……!!」
 体中の関節が、急に不確かになったように、がくがくし出す。ばらばらになっちゃう。このままおちんぽで突かれて愛してるって言われ続けたらばらばらに壊れちゃう。
「――つばさっ!!」
 風はひときわ大きく思い切り腰を振り抜き、あたしの最奥までを容赦なく貫いた。
 あたしは車にはねられでもしたかのように、身体が自分の制御の及ばない境地に飛ばされ、それでも瞳が彼を映すと、彼は泣きそうな顔をしていて、
 どうしてそんな顔、
 ――あ、ごめんね、
「あたし――も――」
 あいしてる。
 語尾を吸い取るように身体が痙攣して、気がつくと、自分のお尻の左右の肉がびったりと張り付いていて、ひやりとしたものを感じる。
 え? なに、これ、どういうこと――
「う、おおおおおおっ……!!」
 獣のような咆哮とともに、あたしのお尻の下にあった風の2つの袋がぎゅうっとせり上がってきて、性器のそばにびたりとくっつき、
「つばさあああっ……!!」
「あっ……ああっ……」
 あたしのなかを満たしていたものが、びくん、びくんと大きく脈打つ。
 射精、しているのだとわかった。
 風が、あたしのなかで、形而下の精子を吐き出している。
「あっ、おおっ……う、うああっ……」
「風、あっ、ああんっ……! あ、ふああっ……」
 繋がった部分が、熱い。
 また、あたし、いってる。だからお尻の肉が閉じてるんだ、と気づく。
 突起を弄られたときとは少し違う感覚だけど、でも、下半身がひくひくとどうしようもなく収縮し続けて、彼を締め付ける。
「うあ……ま、まだ出る……う、ううっ……うおおっ……」
 目を閉じて気持ちよさそうに射精し続ける彼。
 嬉しい。嬉しい。
 あたしのなかで、最高に気持ちよくなってくれたんだ。
「あ、ん……いっぱいだして……」
 自分も天上の気持ちよさに身を浸しながら、彼を見上げて優しく微笑みかけた。
しつこく彼が射精を続ける間、カーテンの隙間から、窓の外に雪が降り積もっているのが見えた。


 大きな子供が、泣きつかれた赤ちゃんのように、無心にちゅっちゅとあたしのおっぱいを吸っている。
 下半身のものには白い液を溜めてぷるんと垂れるコンドームをぶら下げたまま。
「……だらしないわね」
 言いながらも、頭を撫でてしまう。
「……美味しい?」
「うん」
「あまえんぼ」
 手で弄っていたもう片方の乳房に交代し、また吸い始める。
 ひとしきり吸うと、あたしの胸元に抱きつき、「つばさぁ」と情けない声を出した。
「ほら、いい加減とりなさいよ」
 風を寝かせたまま、コンドームを引き抜いてやる。精子がこぼれそうになるのに気をつけながら、端を結ぶ。白い液体の入った小さな袋を掲げ見て、「いっぱい出たね」と言うと、風はもたもたと身体を起こした。
「つばさが、気持ちよくし過ぎるから……」
 責めるようにぼやく。
「な、何言ってるのよ! ひとのせいにしないでよ。あんたのほうがずうっと気持ちよくし過ぎよ!」
「……そうだね。最後、あんなに締め付けてたし」
「な――」
 ふいに、ちゅう、と正面からキスをしてくる。
 あたしは面くらいつつもそれを受け入れ、また、とろんとして来てしまう。

 唇が離れると、あたしは身をかがめ、「気持ちよくしてくれてありがとう」と、風のものにキスをした。まだ大きく上を向いているそれが、ぴくんと震える。
 キスをした流れで、またそれを舐めてしまった。裏すじに沿って舐め上げ、亀頭をしゃぶる。……不味い。ゴム臭い。でも、頭上の風がにわかに息を乱し始めているので、意地になって舐めてしまう。
「つ、つばさ……そんなにしたら、僕、また……」
 と、二人、同時に枕元に目をやる。
 もうひとつだけ、コンドームがある。
「……ちょっと休んだら、また、する?」
「いいの? つばさ」
「……次は、頭に血が上らないようにしてよね」
 二重の意味で。
 ……ううん。「あいしてる」なら、また言ってもいいわよ。

 もう一度、あたしは彼の腕の中に飛び込む。
 彼はあたしの髪を撫でる。
 その手つきがすごく優しい。風はいつも優しいけれど、もっともっと優しい。
 何だか、このひとはずるいなあ、と思う。どこまでも荒々しくも、どこまでも優しくもなれる、あたしの王子様。
 そんな彼を受け止めきれた自分を、少し誇らしく思う。こんな気持ちになるのは初めてだ。
「……ねえ、風」
「ん……?」
「……なんでもない」
 雪のふる静かなお城で、あたしは一時だけ、何かを忘れているような気がする。
 きっと貴方も、同じことを。













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